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大阪高等裁判所 昭和24年(を)3700号 判決

被告人

川添嘉久

主文

本件控訴はこれを棄却する。

当審における未決勾留日数中百二十日を本刑に算入する。

理由

弁護人廣重慶三郞控訴趣意第一点について。

原判決認定の第一事実は、被告人は昭和二十四年二月二十八日頃知人藤本義雄に連れられて一面識もない伊藤市造方に行き、同人方で伊藤市造、蛯名喜正、村上重夫等と共に飮酒中、偶々村上を訪ねて來た長谷川欽彌に対し、その態度が生意氣だとて同人の胸倉をつかまえ頭部を殴りつけたが、伊藤に制止されて長谷川を帰したところ、今度は村上に対し今の喧嘩に知らぬ顏をしていたのが氣に入らぬと言つて、村上の頭髪をつかみ、陶器製灰皿でその頭部を殴りつけて傷害を加えた上、村上の謝罪により仲直りをし、村上と兄弟分の盃をしようと、互に盃を口でかみ切り、その破片で左手首を斬つて血を出し、これを両名で飮み交し、互に所謂仁義を切り、村上は殺人前科四犯ある等の言辞を弄し、血は疊や襖などに散乱して殺伐な場面を呈し、並みいる伊藤市造、蛯名喜正らがその場の光景に呆然として被告人等に対し、畏怖の念を懐いているのに乗じ、同人等に金員の無心をしてこれを喝取しようと企て(一)蛯名喜正(二)伊藤市造に対していずれも金円を交付させてこれを喝取したというのであつて、恐喝罪成立要件としての害惡の通知は必ずしも明示たることを要せず、挙動等その挙動も直接恐喝者に対する場合なると第三者に対する場合なるを問わずによる黙示の場合で足り、その挙動によつて被恐喝者に害惡の來るべきことを認識せしめるもので足りるところ、原判決挙示の証拠によると被告人が長谷川欽彌、村上重夫等に対する前示暴行、すなわち所謂立廻りを演じて置き、これによつて蛯名、伊藤等に被告人の要求に應じなければ暴行を受くべき不安、畏怖の念を懐かしめて、金円の無心を爲し、これを交付せしめたものであるから、恐喝罪の成立を免かれない。原判決判示第二乃至第五事実はいずれも右不安畏怖の念を懐ける伊藤市造に對して、これに乘じ又は新なる暴行によつて金品を交付せしめてこれを喝取したものであり、以上喝取の事實は原判擧示の証拠により優にこれを認定し得るところであるから、伊藤、蛯名、は畏怖を感ずる筈がないとか、その出捐の金品は謝礼であるとかの所論は採用に値しないのみならず、恐喝者が相手方に畏怖の念を生ぜしめるために自己の身内配下等に暴行を加えるなどは最早、常套手段ともいえるから被告人の仁侠の謝礼と解しなければ常識に反するとはとうてい言えない。また原判示中村上が殺人前科四犯ある等の言辞を關した点はその場の雰圍氣を敍する經過的描寫であつてこれを被告人の責に歸せしめた趣旨だとは解されない、要するに事實誤認の論旨は理由がない。

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